資格取得をめざした動機、実際の受講で感じたこと、
学習のプロセスで学んだこと、そして現在の実際の活動について紹介します。
なお、日本精神科看護学術集会には、精神科認定看護師の生の声を聞くことができるブースがあります。質問や相談などなど、気軽に声をかけてください。
思春期・青年期の看護に携わってきましたが、被虐待児の苦しさ、怒り、悲しみ、せつなさを受けとめる難しさを感じていました。そんなときに精神科認定看護師制度を知り、受講しました。講義を受けるなかで、試行錯誤して取り組んできたことを理論的に再確認でき、まさに理論と経験がつながる感覚でした。
現在、立ち上げからかかわってきた児童・思春期病棟に勤務していますが、オールマイティに動くように心がけています。時に縁の下の力持ちとなり、できることはすべてやるようにしています。そして、チーム内をつなぐ役割として細かなことにもアンテナを張りめぐらせ、スタッフと患者さんがお互いに安心できる関係を築けるよう、日々、努めています。
佐藤恵美子(2001年登録)
一般財団法人聖マリアンナ会東横惠愛病院
精神科認定看護師の資格を取得して14年が経ちますが、かけがえのない先生は目の前の子どもたちで、いまだに教えてもらうことがたくさんあります。
ご家族のつらい思いを聞き、とてもやるせない気持ちになったことがありました。そのとき、支援についてもっと学びたいと思ったのが、精神科認定看護師をめざした動機です。
資格取得で自分がいちばん変わったのは、スペシャリストとしての強い責任感です。病棟では認知行動療法を看護に取り入れ、より能動的に患者さんにかかわれるようになりました。ほかのスタッフも、回復が見えてきたことで認知行動療法や精神科認定看護師に興味をもってくれるようになりました。また、病棟をラウンドしスタッフから相談を受けたり、学校や老人福祉施設などで、うつ病や問題行動への支援について講演を行っています。資格をとって活動の機会が増えていることを実感しています。
長浜利幸(2009年登録)
兵庫県立光風病院
研修会で出会った方々とは、学会で企画セミナーを開催したり、励ましあったり。自分自身にとって、仲間であり、めざす目標であり、かけがえのない存在です。
「保護室から退室したい」という患者さんの希望に対し、自分の専門的なアセスメント力のなさ、院内の行動制限最小化のシステムも未整備だったことから応えられず、専門性を身につけたいと思いました。
資格取得後は行動制限最小化委員会の下部組織として行動制限最小化推進委員の組織の立ち上げ、各病棟へのリソースナースの配置などの取り組みに携わりました。また、長期入院の患者さんに対し、看護者が持ち物管理を行うことが多く、セルフケアの低下を招いている状況を改善するため、隔離・身体拘束の定期点検・見直しを兼ねて月2回、各病棟に出向いて助言しています。今後は、その取り組みを深めて研究発表したいと思っています。
安田義光(2014年登録)
福島県立矢吹病院
制度改正で来年度から領域が統合されますが、行動制限最小化看護領域を核にしながら、精神科認定看護師の仲間の力を借り、幅広く学んでいきたいと思っています。
私が精神科認定看護師をめざしたのは、自分のなかにある精神科看護を発見し、確かなものにし、自分の歩むべき道を見つけるためだったと思います。資格取得後は、在宅介護支援センターへの異動をきっかけにケアマネジメントを実践すると同時に、退院後の患者さんの生活実態を目の当たりにしました。「いまの私」がやるべきこと、できること、精神科看護の知識と技術と専門性を発揮し、形にしていくためにNPO法人を立ち上げました。民家を借りて精神障がい者ケア、地域づくりを始めて10年が経過しました。精神科認定看護師としての歩みがあったからこそ、いまの私があると思っています。
一歩を踏み出す勇気が自分自身を成長させ、病院や地域を変える力になると思います。
山根俊恵(1997年登録)
山口大学大学院医学系研究科
資格取得をめざしたのは、山口県で2つ目のデイケアを立ち上げてから2年。言葉だけで「これからは地域だ」と言われはじめたころでした。いまも多くの課題がありますが、地域にいるから全体が見えるのだと感じています。
療養型医療施設で老年看護に10年間携わったあと、介護支援専門員として勤務し、メンタルヘルスの大切さに気づきました。いまの職場に就職後、精神科看護を学びたいという思いから受講しました。
現在、特殊疾患病棟に勤務しています。“快”の刺激が大切だと考え、精神症状とともに摂食・嚥下、排泄、睡眠などに注目したケアを実践しています。イレウスをくり返す患者さんに排泄を中心に看護を提供することでセルフケアレベルが改善した経験もしました。患者さんの強みに注目した看護をしたいと思っていますが、あとで気づかされることが多いと感じています。「精神科認定看護師として」というよりは「一看護師として何ができるか」を考え、答えを患者さんに教えられているように思います。
八田由利子(2010年登録)
医療法人社団一陽会陽和病院
資格取得するとき、「5年後は定年を迎えるけれども、更新するつもりで活動しなければ精神科認定看護師として成長できない」と思いました。この4月に定年になりましたが、現在も非常勤として勤務しています。
児童・思春期精神看護の臨床に携わりたくて、当時新設された現在の職場に異動しました。意欲は人一倍ありましたが、臨床経験の少なさから知識や技術が伴わず、歯がゆい思いをたくさん経験しました。そのなかで、自信をもって子どもや家族にかかわりたいと思うようになりました。協会主催の研修会で出会った精神科認定看護師の姿に憧れを感じたのも、決意するうえで大きかったです。
研修会や実習でさまざまな臨床状況に対応する力を養うことができ、自分に自信もつきました。専門性を臨床に活かしていこうという意識も生まれ、子どもや親に対する向きあい方が変化したように思います。多職種チームのなかでも役割や立場を考えて行動できるようになったと感じます。
今野美香(2011年登録)
東北福祉大学せんだんホスピタル
研修期間中は決して楽しいことばかりではなく、職場から離れての心細さや試験に向けてのプレッシャーなどもありましたが、仲間同士での交流が大きな支えとなりました。ネットワークができたことも、大きな収穫です。
研修会、実習は、楽しい思い出しかありません。地方で看護師をしている私にとって、研修開始当初、それぞれが自分の看護に対する考え方などを発言する姿を見て、圧倒されることもしばしば。「最後までついていけないかも」と思ってしまいました。仲間の1人が提案した研修後の勉強会に参加し、お手伝いをするのが日課でした。自由参加でしたが、常に30人近い人数が参加。過去問をみんなで考えたり、小論文の練習をしたりするなかで、同期の結束も強くなりました。懇親会も4か月で3回開催しました。
資格取得以降は地域の支援者の方からの依頼で、研修会や地域のネットワーク会議でお話ししたり、「こころの健康出前講座」で地域住民の方と接する機会が増えました。
橋本憲明(2013年登録)
医療法人南江会一陽病院
研修にかかる費用削減のため、研修会場から電車通勤可能な下町の安宿を選びました。テレビと小型冷蔵庫、小さいテーブルのみの3畳一間。狭い所が好きな私には快適な空間でした。
当院は地理的に外部との交流が少ない環境にあります。「当院と都市部の医療とではどのぐらい差があるのか。当院の立ち位置を知りたい」と考え、精神科認定看護師を志望しました。3か所の病院実習、仲間に頼んで病院見学もさせてもらうなど、全国の精神科医療・看護に触れることができ、当院の強みも知ることができました。いまも、全国の精神科医療に関する情報をリアルタイムで仲間と共有できることは、自分の強みとなっています。
今後はほかの病院で学んだ心理教育を病棟に取り入れ、看護の質の向上をはかりたいと思っています。これからも全国の病院に学び、スタッフに伝えていくこと。「学ぶ」「伝える」「育てる」を大事にして携わっていけたらと考えています。
武藤崇央(2015年登録)
社会医療法人函館博栄会函館渡辺病院
「外の世界を見てみたい」という意欲がとても強いかもしれません。当院外科に3年間従事したあと、語学留学のためカリフォルニア州サンディエゴに1年間滞在。帰国後、当院精神科に勤務し、10数年が経ちました。
当院では2人の精神科認定看護師が活躍しています。具体的には行動制限最小化委員会に2人の精神科認定看護師がメンバーに加わり、ケースに踏み込んだ検討を行い、かかわり方や改善点について助言しています。また病棟カンファレンスに参加したり、スタッフの相談にのるなかでスタッフの行き詰まり感も解消されるなど、指導力の大きさを感じます。院外では日本アルコール看護研究会などで活動し、さまざまな病院との交流が深まっています。地域の当事者グループからもレクチャーを求められるなど、地域とのつながりも広がりました。
2人とも看護学校の講師として、学生に体系的な知識と精神科看護の魅力を伝えています。学生の見学も増え、仲間が広がっていることを実感しています。
小松尚司
医療法人稲門会
いわくら病院 看護部長
当院では安全で質の高い看護を提供するために精神科認定看護師の育成に取り組み、2013年に2人、今年は3人の精神科認定看護師が誕生しました。2013年に資格を取得した1人は、長期入院患者の退院支援にかかわり、退院支援委員会への参加や退院準備プログラム、退院前訪問の実施など、安心して地域生活に移行できるよう支援を行っています。退院が進まない患者さんへのかかわりや支援についても、病棟看護師の相談を受け、サポートしています。もう1人は病棟師長として管理職にあり、教育にも力を入れています。精神科薬物療法と看護をテーマに、院外講師も行いました。
今年度は認定看護師活動会を立ち上げ、組織や地域でどのような役割が発揮できるかなど、楽しく前向きに活動内容を話しあっています。
久徳美鈴
公益財団法人慈愛会
谷山病院 看護部長